熊本地方裁判所 昭和39年(行ウ)12号 判決 1966年12月27日
八代市都築一番町六一の一の二
原告
西田正勝
右訴訟代理人弁護士
東敏雄
同
市花園町
被告
八代税務署長
上野平治
右
指定代理人 大道友彦
右同
宮山淳
右同
笠原貞雄
右同
宮田正敏
右同
大塚勲
右当事者間の昭和三九年(行ウ)第一二号課税処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告が原告に対し昭和三九年三月七日付でなした、原告の昭和三六年分の所得税を一、五九六、三八〇円に更正する処分並びに重加算税二五〇、〇〇〇円を賦課する処分のうち、所得金額四、五九九、二五二円に基き算定した所得税額並びに重加算税額を超える部分を取消す。
原告のその余の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は全部原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「一、被告が原告に対し昭和三九年三月七日付をもつてなした次の所得税の更正処分並びに重加算税の賦課処分を取消す。(一)昭和三五年度の原告の所得に対し、申告所得税額を一、〇四四、一二〇円に更正する処分並びに重加算税一〇三、〇〇〇円の賦課処分、(二)昭和三六年度の原告の所得に対し、申告所得税額を一、五九六、三八〇円に更正する処分並びに重加算税二五〇、〇〇〇円の賦課処分、(三)昭和三七年度の原告の所得に対し申告所得税額を三九七、九七〇円に更正する処分並びに重加算税九五、一〇〇円の賦課処分。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
一 原告は被告に対し、昭和三五年度、同三六年度、及び同三七年度の各所得税に関し別表第一記載のとおり確定申告及び修正申告をしたところ、被告は昭和三八年一一月二一日付で同表記載のとおり更正決定並びに重加算税賦課決定をなした。そこで原告は被告に対して同年一二月一三日異議の申立をなし、昭和三九年三月七日付で前同表記載のとおり異義申立に対する決定がなされたので、更に同年四月七日熊本国税局長に対し審査の請求をなしたが、同年七月一〇日棄却する旨の決定があり、原告は右決定書の送達を受けた。
二 しかしながら被告のなした本件更正処分及び重加算税賦課処分は次の理由により違法であり取り消されるべきである。
(一) 被告は右更正処分をなした根拠として原告の昭和三五年分の売上金額を四九、四九五、二二五円(申告額二八、九〇二、五二一円)昭和三六年分の売上金額を七九、九一七、〇四六円(申告額四五、六二一、六二四円)昭和三七年分の売上金額を三六、六九六、〇九九円(申告額二七、九六二、八〇七円)と認定しているが、右の如く多額の更正をなすについて如何なる取引が未申告であつたのか全然理由を開示していない。右更正については当然これに相当する未申告の新たな取引を被告において発見したというのであろうが、原告は右増加額に相当する取引の存在を否認する。
(二) 原告は昭和二〇年ごろより製材業を営んで来た者であるが、複雑な税務経理に全く無知であつたので、昭和三二年中被告の推せんにより訴外谷川浩に経理を一任し、昭和三七年迄同訴外人により所得税の申告を行なつて来た。原告は同訴外人が被告の推せんに係る人物であるので当然税理士の資格を有するものと信じ、同人に全幅の信頼を置いていた。しかるに同訴外人は受任以来原告に対し税務に必要な書類の整備等の有益なる指示を与えたことなく、年間を通じて所得税の申告時期に一、二度原告方に立会いに来るのみであり、その際は被告係員と共に調査と称して旅館に赴くのみで原告に対しその説明を求めたことがない。従つて原告は如何なる資料により如何なる申告がなされたか不知のまま被告の賦課どおり納税して来たところ、突如前記の如き更正決定及び重加算税賦課決定を受けるに至つたものである。
しかして同訴外人は何ら税理士の資格を有しないことが判明したので、原告は急ぎ委任を解除し、その後上原税理士に一切を一任すると共に、従来の関係資料一切の引渡しを谷川に求めたところ、資料は皆無として拒絶された。
いやしくも税理士の監督の立場にある被告が、かような無資格、無能力な者を税理担当者として推せんするが如きはその職務の執行について重大な過失がある。従つて仮に被告の前記更正決定が理由ありとしても、その不申告に関する責任は被告が負うべきものであつて原告が重加算税を課せられるべき理由はない。
と述べ、被告の主張に対する答弁として、
一 第一の一の(一)、第二の一の(一)、第三の一の(一)について
肥後木材市場株式会社関係の吉田博、中村木材、松本木材及び吉野木材名義の各取引、第一木材市場株式会社関係の甲斐木材、西山製材、宮川製材、中村材木、寺本製材名義の各取引、熊本木材市場株式会社関係の宮崎材木、宮崎、岡崎、木村木材名義の各取引、福岡県木材市場株式会社関係の田中一男、田中林業名義の各取引、福岡相互市場株式会社関係の坂田製材、吉田商店、吉田製材所、田中木材、田中製材、山本製材、中村製材、小林木材、小林商店、西田木材、西山製材名義の各取引、株式会社寺田商店関係の西田製材又は白島製材、岡田製材名義の各取引、及び江夏商事株式会社関係の森本木材名義の取引(以上いずれも別表第二記載のうち赤○印をしたもの)がいずれも原告の取引であることは否認するが、その余は争わない。
二 前記の如く原告は製材業者であるが、一般に製材業者の実情として製材用の素材立木を山主より買受ける場合には必ず売主からその氏名を秘すように要望せられ、もしこれを明らかにした場合には爾後素材の買入れは全く不可能となり営業上著しき困難に遭遇するので、昭和三七、八年ころまでは八代地区の殆んどの製材業者が素材売主の氏名を明らかにしないのが通常であつたし、このことは被告も充分了知しているところであり、従つて原告の所得の算定に関し所得標準率を適用せられることは止むを得ないところである。
三 被告は市場手数料率について熊本及び福岡市場においては六%及び七%であると主張するが、昭和三七年迄は七%である。大阪市場が八%であることは認める。
しかし右手数料の外に市場内整理費として〇・五%を支払う規定になつているので、結局市場手数料の控除率は、熊本及び福岡市場においては七・五%、大阪市場において八・五%である。尚右の外大阪市場分については海上運賃諸掛として一二%の控除を主張する。
四 原告は市場取引において主として西田製材所又は白島木材の名義を用いているが、出荷木材の質が粗悪な場合には市場における名声信用を傷つけないために別個の名義を用いて出荷することは木材取引業界の慣習であつて、単一の取引名義のみによつて取引をなす木材業者は皆無であり、このことは被告において了知するところである。
と述べ、立証として、甲第一号証の一ないし七二、第二号証の一ないし五五を提出し、証人谷川浩の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第五号証の二の西田製材所の記載及び押印の成立は認める、その余は不知、同第五号証の三の原告の判取り部分の成立は認める。その余は不知、同第五号証の四の西田セ材の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第六号証の二の西田製材所及び愛甲木材の各判取りの部分の成立は認める、その余は不知、同第七号証の二、三の原告の各判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第一四号証の二の岡崎木材、西田製材所、上村木材の各判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第一四号証の三の西田製材所、上村木材の各判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第一五号証の二の西田セ材所の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第一六号証の二、三の原告、西田製材の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第一六号証の四の西田セ材の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第二二号証の二、三の原告の各判取り部分の成立は認める、その余は不知、同二三号証の二、三の原告の各判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第二四号証の二の白島木材工業所の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第三五号証の二の西田製材所の判取り部分の成立は認める、その余は不知、同第三五号証の三の西田セ材所、中村木材の判取り部分の成立は認める、その余は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。
被告指定代理人は「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、
第一項の事実は認める。第二項の事実のうち各申告売上金額及び更正売上金額は認めるが、その余は争う。
と述べ、その主張として、
第一昭和三五年分の課税標準について
一 営業所得
(一) 原告は多数の架空名義を使用して木材市場等と取引をしていたが、被告の調査による収入金額は別表第二記載のとおり五一、九〇六、二三五円である。
(二) 所得金額の計算
被告は、原告が仕入金額を明らかにしないため、商工庶業等所得標準率表(以下標準率表という。)によつて製材(素材仕入を主とするもの自一〇、五〇%至二二、五〇%平均一八、五〇%)の平均率一八、五〇%を収入金額五一、九〇六、二三五円に乗じて九、六〇二、六五三円を求め、この金額から別途控除することになつている雇人費一、五九〇、八七一円、減価償却費(建物六、七五〇円、自動車二四一、〇八七円)二四七、八三七円、地代六三、七五〇円、市場手数料二、四一七、一三八円、貸倒金一、〇〇〇、〇〇〇円を控除して所得金額を四、二八三、〇五七円とした。
尚市場手数料を控除したのは、原告の取引先中木材市場関係の取引のみで(その他の取引先は原告から直接木材を買入れているので手数料はない。)その取引先市場名、手数料率手数料金額は別表第三記載のとおりである。尚各木材市場により手数料以外に〇・〇二%ないし〇・〇五%程度の市場整理費を徴収しているところもあるが、これは標準率表において木材の運搬費等と共に市場に売渡す諸経費に含まれて当然控除されているので、別途の控除は認められないものである。
二 譲渡所得は損失三六〇、二六八円である。
三 よつて課税標準額は営業所得金額から譲渡損失を控除した三、九二二、七八九円である。
第二昭和三六年分の課税標準について
一 営業所得
(一) 被告の調査による収入金額は別表第二記載のとおり八〇、三八六、九九四円である。
(二) 所得金額の計算
被告は、原告が仕入金額を明らかにしないため、標準率表によつて製材(素材仕人を主とするもの自一一、六〇%至二三、六〇%、平均一九、六〇%)の平均率一九、六〇%から借入金利子率一、一〇%を控除した一八、五〇%(借入金利子の実際額が明らかでない場合は、標準率表を適用する場合に借入金利子額を控除するようになつている。)を収入金額八〇、三八六、九九四円に乗じて一四、八七一、五九三円を求め、この金額から別途控除することになつている雇人費三、二五六、四七五円、減価償却費(建物一六、九八三円、自動車六八六、四六六円)七〇三、四四九円、市場手数料三、九一六、四八九円、貸倒金一、五八五、〇〇〇円、計九、四六一、四一三円を控除し、さらに事業専従者控除額一四〇、〇〇〇円を控除して所得金額を五、二七〇、一八〇円とした。
二 譲渡所得は損失二一五、四二〇円である。
三 よつて課税標準額は営業所得額より譲渡損失を控除した五、〇五四、七六〇円である。
第三昭和三七年分の課税標準について
一 営業所得
(一) 被告の調査による収入金額は別表第二記載のとおり三八、一四二、〇九四円である。
(二) 所得金額の計算
被告は原告が仕入金額を明らかにしないため、標準率表によつて製材(素材仕入を主とするもの自一四、三〇%至二三、六〇%、平均一九、六〇%)の平均率一九、六〇%から借入金利子率一、一〇%を控除した一八、五〇%を収入金額三八、一四二、〇九四円のうち賃加工による収入金額一八〇、九〇七円を除いた三七、九六一、一八七円に乗じて七、〇二二、八一九円を求め、これに賃加工による収入金額一八〇、九〇七円に標準率表の七一、七〇%から利子率一、三〇%を控除した七〇、四〇%を乗じた金額一二七、三五八円を加算して合計七、一五〇、一七七円を算出し、この金額から別途控除することになつている雇人費二、二六二、九三一円、減価債却費(建物三七、四四九円、自動車七四一、四二〇円)七七八、八六九円、市場手数料一、七〇四、五五〇円計四、七四六、三五〇円を控除し、さらに事業専従者控除額一四〇、〇〇〇円を控除して所得金額を二、二六三、八二七円とした。
二 課税標準額は営業所得金額二、二六三、八二七円である。
第四重加算税の課税について
原告は、多数の架空名義を使用して市場と取引を行ない、課税標準の基礎となるべき事実を仮装、隠ぺいしたことは明らかである。したがつて被告は、昭和三五年分及び昭和三六年分については国税通則法附則第九条の規定により所得税法(旧法)第五七条を適用し、又昭和三七年分については国税通則法第六八条を適用して重加算税を徴する決定をなしたものである。
第五 以上のとおり原告の昭和三五年分の課税標準額は三、九二二、七八九円、昭和三六年分のそれは五、〇五四、七六〇円、昭和三七年分のそれは二、二六三、八二七円であるから、これを下廻る昭和三五年分の課税標準額三、六六九、四七二円、昭和三六年分のそれを五、〇〇〇、六四七円、及び昭和三七年分のそれを二、〇一三、二二一円と認定した本件更正処分並びに重加算税賦課決定処分はなんら違法ではない。
と述べ、立証として、乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一ないし四、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし七、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一ないし三、第一八号証の一、二、第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一、二、第二五号証の一、二、第二六号証の一二、第二七号証の一ないし五、第二八号証の一ないし三、第二九号証の一ないし三、第三〇号証の一ないし四、第三一号証の一ないし三、第三二号証の一、二、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証の一ないし三、第三六号証の一、二、第三七号証、第三八号証の一ないし五、第三九号証の一、二、第四〇ないし第四二号証、第四三号証の一ないし三、第四四、第四五号証を提出し、証人川良房子、同南昌巳、同興梠重治、同小串俊一、同馬場虎夫、同竹林正吉、同古庄崇雄の各証言を援用し、甲号各証の成立はいずれも認めると述べた。
理由
一 請求原因第一項は当事者間に争いがない。
二 本件更正処分の適否について
(一) 各年毎の総収入金額について
原告は被告が原告の別名取引であると認定し、別表第二記載のとおり原告の収入金額に計上したもののうち一部を否認するので、以下各取引先別に検討する。
(1) 肥後木材市場株式会社関係の「吉田博」「中村木材」「松本木材」及び「吉野木材」名義の取引について。
証人川良房子の証言により肥後木材市場株式会社備付の荷主台帳であることが明らかな乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一、二、同第三号証の一、二、同第四号証の一、二によれば、同会社には係争年度中「吉田博」「中村木材」「松本木材」及び「吉野木材」名義で製材の出荷がなされ、被告主張の額の取引がなされていることが認められる。
そして同証人の証言により、同会社でひらかれる木材市に木材を出荷した業者が市ごとの代金を同会社から受領するに際し、受領に出向いた者自身にその月日、領収金額、及び業者の氏名又は商号を手記押印することを要求し、極めて稀な例外を除き、そのように取扱われている同会社備付の判取帳であることの明らかな乙第五号証の一ないし三、同第六号証の一、二、及び同第七号証の一ないし三には、
それぞれ原告から代金受領に遣わされたものが原告の取引分の代金として受領したことを明らかにするために記載したものであることに争いのない「西田製材所」「西田正勝」「西田セ材」等の名義の右のような領収記載のほか、これと並んで同一筆蹟とみとめられる「吉田木材」、「中村木材」「吉田博」「松本木材」及び「吉野木材」名義の代金領収の記載が存すること、
およびこれらの各領収金額が前顕各荷主台帳記載の市ごとの支払代金額と一致していること、しかもこれらの名義の取引分につき原告の取引分と一緒に同一筆跡の連名で領収されているのは必ずしも一回に限られず、数回に及んでいるものもあること、
が明らかであるとともに、原告自身が本件各係争年度中ある程度の数の別名を用いて各木材市場へ製材を出荷していたことはその自認するところであるから、かような連関のある上記「吉田木材」「中村木材」「吉田博」「松本木材」及び「吉野木材」名義の取引は別名による原告自身の取引であると認むべきであり、そのように認めるについてその妨げとなる資料は何ら存しない。
(2) 第一木材市場株式会社関係の「甲斐木材」「西山製材」「宮川製材」「中村材木」及び「寺本製材」名義の取引について。
証人南昌己の証言により第一木材市場株式会社備付の荷主原簿であることが明らかな乙第一〇号証の一ないし七、同第一二号証の一ないし三、同第一三号証の一、二によれば、同会社には係争年度中「西山製材」「中村材木」及び「寺本製材」名義で製材の出荷がなされ、「西山製材」名義の昭和三七年分の取引金額を一七七、二一九円と認める外は、右各名義で被告主張の額の取引がなされていることが認められる。
そして同証人の証言により前記(1)と同様の方法で取扱われている同会社備付の判取帳であることの明らかな乙第一四号証の一ないし三、同第一五号証の一、二及び同第一六号の一ないし四には、
それぞれ原告のものであることに争いのない「西田製材所」「西田セ材所」「西田正勝」「西田製材」及び「西田セ材」等の名義の右のような領収記載の外、これと並んで前同様の連関のある同一筆跡と認められる「西山木材」「中村木材」及び「寺本木材」名義の代金領収の記載が存するから、右「西山木材」「中村木材」及び「寺本製材」名義の各取引は別名による原告自身の取引であると認むべきであり、そのように認めるについてその妨げとなる資料は存しない。
しかしながら「甲斐木材」及び「宮川製材」名義の各取引については、これをもつて原告自身の別名取引であると認めるに足りる証拠はない。
もつとも「甲斐木材」名義の取引については、前記証言により同会社の備付の判取帳であると認められる乙第一六号証の一ないし四によると、それぞれ前同様の関係で原告の記載であることに争いのない「西田正勝」「西田製材」「西田セ材」等の名義の領収の記載の外、これと並んで同一筆跡と認められる「甲斐原木材」名義の代金領収の記載が存することが認められるが、これらの「甲斐原木材」名義の各領収金額は前記証言により同会社備付の「甲斐木材」関係の荷主原簿と認められる乙第八号証の一ないし五記載の各支払代金額と対照の結果一致していないことが明らかであり、他に右「甲斐原木材」が「甲斐木材」と同一であつて、「甲斐木材」が「甲斐原木材」の誤記であることを肯認せしむるに足りる証拠はない。
(3) 熊本木材市場株式会社関係の「宮崎材木」「宮崎」「岡崎」及び「木村木材」の名義の各取引について。
証人興梠重治の証言により熊本木材市場株式会社備付の荷主勘定帳簿であることが明らかな乙第一七号証の一ないし三、同第一八号証の一、二、同第一九号証の一、二、同第二〇号証の一、二、同第二一号証の一ないし四によれば同会社には係争年度中「宮崎材木」「宮崎」「岡崎」及び「木村木材」名義で製材の出荷がなされ、被告主張の額の取引がなされていることが認められる。
そして同証人の証言により前同様の方法で取扱われている同会社備付の判取帳であることの明らかな乙第二二号証の一ないし三、同第二三号証の一ないし三、同第二四号証の一、二には
それぞれ原告のものであることに争いのない「西田正勝」「白島木材工業所」等の名義の右のような領収記載の外、これと並んで前同様の連関のある同一筆跡と認められる「宮崎木材」「宮崎正吉」「岡崎木材」及び「木村木材」名義の代金領収の記載が存するから、右「宮崎材木」「宮崎」「岡崎」及び「木村木材」名義の各取引は別名による原告自身の取引であると認むべきであり、そのように認めるについてその妨げとなる資料は存しない。
(4) 福岡県木材市場株式会社関係の「田中一男」及び「田中林業」名義の取引については、右名義の取引が原告自身の別名取引であると認めるに足りる証拠は何ら存しない。
(5) 福岡相互木材市場株式会社関係の「坂田製材」「吉田商店」「吉田製材所」「田中製材」「田中木材」「山本製材」「中村製材」「小林木材」「小林商店」「西田木材」及び「西山製材」の各名義の取引について。
証人馬場虎夫の証言により福岡相互木材市場株式会社備付の仕入帳であることが明らかな乙第二七号証の一、二及び四、五、同第二八号証の一、二、同第二九号証の一、二、同第三〇号証の一ないし四、同第三一号証の一ないし三、によれば、同会社には係争年度中「坂田製材」「吉田商店」「吉田製材所」「山本製材」「中村製材」及び「西山製材」名義で製材の出荷がなされ、「西山製材」名義の昭和三六年分の取引金額を九〇二、七〇二円と認定する外は被告主張の額の取引がなされていることが認められる。
そして同証人の証言により前同様の方法で取扱われている同会社備付の判取帳であることの明らかな乙第三五号証の一ないし三には、
それぞれ原告のものであることに争いのない「西田製材所」「西田セ材所」等の名義の右のような領収記載の外、これと並んで同一筆跡と認められる「吉田製材所」「中村木材」名義の代金領収の記載が存することが明らかであるところ、
(イ) まず「中村木材」名義の分は原告の別名と認めた前認定の分と同様の関係にあることが認められ、
(ロ) 「吉田製材所」名義の分は、右領収にかかる金額は前顕乙第三一号証の三の同会社の「吉田製材所」関係の仕入帳記載の支払金額と一致していないけれども、原告本人尋問の結果により原告において同会社の仕入帳の一部を抜き写して作成した書面であると認められる乙第四七号証によれば、右領収にかかる金員は同会社関係で原告の別名取引であることについて争いのない「吉田木材」名義で支払われた金員であり、これを原告において「吉田製材所」名義で領収していることが認められ、
(ハ) 「坂田製材」名義の関係では、前顕乙第二九号証の二の「坂田製材」名義関係の仕入帳、株式会社西日本相互銀行八代支店の普通預金元票の写しであることが弁論の全趣旨により肯定される乙第三七号証および証人古庄崇雄の証言によれば、同会社より昭和三七年一〇月一七日付で「坂田製材」名義宛に製材代金として支払われた金五五五、七五四円が、同年同月二〇日原告の二男である西田郁一名義の普通預金に入金されていることが認められ、
(ニ) 「吉田商店」名義の関係では、証人古庄崇雄の証言及び同証言により博多税務署係員が同会社を実地調査をした上、右調査結果に基き作成したものと認められる乙第三八号証の三、四によれば、同係員が調査の結果原告が「吉田商店」なる別名で同会社と取引をしている旨確認していることが推認され、
(ホ) 「山本製材」名義の関係では、前顕乙第三一号証の二、の「山本製材」名義分の仕入額及び弁論の全趣旨により株式会社福岡銀行振出の小切手であることの明らかな乙第三九号証の一、二によれば、同会社より昭和三七年九月一五日「山本製材」名義宛に製材代金として支払われた二五三、四六五円が送金小切手により福岡銀行から肥後銀行八代支店宛に送金され、右金員は八代市仲町西田貴子なる者がその支払を受けているところ、同小切手裏面の西田貴子名下の印影は原告使用の印影(例えば乙第一四号証の二の西田製材所名下の印影)と対照の結果同一であることが認められ、(この点について原告本人は当時原告の弟の西田良介が八代市仲町で製材業を営んでいた旨、同小切手の支払を受けた者が西田良介であるかのような供述をしているけれども、前顕乙第二二号証の二に原告の領収記載と並んで記載してある訴外西田良介の領収記載は真正なものと推認されるところ、その名下の印影は前記西田貴子名下の印影と対照の結果同一でないことが明らかであるので、単に西田良介が当時八代市仲町で製材業を営んでいたという事実のみでは、前記領収が西田良介によつてなされているものと認めることは出来ない。)
(ヘ) 「西山製材」名義の関係では、同会社の「西山製材」名義分の仕入帳である前顕乙第二八号証の二の上欄に「八代市西田」なる記載がなされていることが認められ、且つ同仕入帳及び証人馬場虎夫の証言により同会社の備付の判取帳であると認められる乙第三六号証の一、二によれば、同会社より昭和三六年一〇月三一日「西山製材」名義宛に製材代金として支払われた前渡金三〇万円が、同日「八代市西田製材所代人松田喜市」なる表示によつて領収されていることが認められ、(この点について原告本人は松田喜市なる者は原告の使用人又は知人には存在しない旨供述しているが、同供述により原告の娘が原告の指示に従つて同会社関係の原告の別名取引分を調査した上、別名取引分であると認めて記載し、被告に任意提出した書面であると認められる乙第四六号証(但し最初の一枚のみ)には原告の別名取引分として「西山」なる記載がなされていることが明らかであるから、右領収記載は原告のものと認定するのが相当である)
以上認定の諸事実によれば、「坂田製材」「吉田商店」「吉田製材所」「山本製材」「中村製材」及び「西山製材」名義の各取引は別名による原告自身の取引と認むべきであり、そのように認めるについてその妨げとなる資料は他に存しない。
しかしながら「田中製材」「田中木材」「小林木材」「小林商店」及び「西田木材」名義の各取引については、これをもつて原告の別名取引であると認めるに足りる証拠は何ら存しない。
(6) 株式会社寺田商店関係の「西田製材」又は「白島木材」及び「岡田製材」名義の取引について。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四〇ないし第四二号証によれば、同会社には係争年度中「西田製材又は白島製材」及び「岡田製材」名義で製材の出荷がなされ、被告主張の額の取引がなされていることが認められる。
そして右乙第四〇及び第四一号証によれば、同会社関係では昭和三五年一月九日以降同三七年六月二日まで「西田製材所」名義で取引がなされ、同年六月二日以降は「白島製材」名義で右取引が継続されているところ、更に右乙第四二号証及び弁論の全趣旨により同会社の一般振替伝票の写しであることを肯定し得る乙第四三号証の一ないし三によれば、岡田製材に対する昭和三六年五月三〇日支払の一〇〇万円、同年七月二九日支払の一五〇万円、同年九月九日支払の二〇〇万円がいずれも熊本西田に対する支払として振替えられ原告の取引銀行である肥後銀行八代支店に送金されていること、西田製材に対する昭和三六年九月九日支払の一六〇万円が同様熊本西田に対する支払として振替送金されていることが明らかであり、その他原告本人尋問の結果によれば、原告は同会社との取引があつたことを自認しており且つ昭和三七年ごろ以降は従来の「西田製材所」名義を「白島製材」なる別名義に変えたこともその自認するところであるから、右取引はすべて原告自身の取引であると認めるべきであり、他に右認定の妨げとなる資料は何ら存しない。
(7) 江夏商事株式会社関係の「森本木材」名義の取引について。
弁論の全趣旨により同会社の買掛金元帳の写しであることを肯定し得る乙第四四号証によれば、同会社には係争年度中「森本木材」名義で製材の出荷がなされ、被告主張の額の取引がなされていることが認められ、そして公務員の作成にかかるので真正な文書と推定すべき乙第四五号証によれば、右名義による取引は原告の用いた取引上の別名であり原告自身の取引であることが認められ、他に右認定に妨げとなる資料は存しない。
(8) そうすると、被告主張にかかる別表第二記載のもののうち、以上の認定にかかる以外の分の取引についてはすべて当事者間に争いがないから、右争いのない分に上記原告の別名取引であると認定した分を加えると、結局原告の各年毎の売上総収入金額は、昭和三五年分は五〇、七四八、七五〇円、同三六年分は七六、七四二、九三三円、同三七年分は三七、四一二、五八三円となる。
(二) 各年毎の所得金額(課税標準)の算出
(1) 昭和三五年分の所得金額
原告は右認定の売上高の原価を構成すべき素材の仕入金額を一切明らかにせず、被告主張の標準率表による標準率をもつて売上高から営業所得金額を推計せられること自体はこれを容認せざるを得ないとしている。(但し別途控除すべき経費が被告の認める以外にもあるという留保を付しているが、この点については後記(三)において判断する。)従つて前記収入金額五〇、七四八、七五〇円に標準率一八、五〇%を乗じて九、三八八、五一八円を求め、この金額から被告において自認する別途控除費用(但し市場手数料は市場関係の売上高に対する後記認定の率六又は七パーセントを乗じて得た額二、三四七、六八九円となる)計五、二五〇、一四七円を控除すれば、同年の営業所得金額は四、一三八、三七一円となる。そこで更に右金額より被告の自認する譲渡損失三六〇、二六八円を控除すると同年の課税標準となる所得金額は三、七七八、一〇三円となる。
(2) 昭和三六年分の所得金額
前記収入金額七六、七四二、九三三円に標準率表による標準率一八、五〇%を乗じて一四、一九七、四四二円を求め、この金額から被告において自認する別途控除費用(但し市場手数料は前同様市場売上額の六パーセント三、六九七、八四六円となる)計九、二四二、七七〇円及び専従者控除額一四〇、〇〇〇円を控除すれば、同年分の営業所得金額四、八一四、六七二円となる。そこで更に右金額より被告において自認する譲渡損失二一五、四二〇円を控除すると同年の課税標準となる所得金額は四、五九九、二五二円となる。
(3) 昭和三七年分の所得金額
前記収入金額三七、四一二、五八三円のうち賃加工による収入金額一八〇、九〇七円を除いた三七、二三一、六七六円に標準率一八、五〇%を乗じて六、八八七、八五八円を求め、これに賃加工による収入金額一八〇、九〇七円に七〇、四〇%を乗じた金額一二七、三五八円を加算して合計七、〇一五、二一六円を算出し、この金額から被告において自認する別途控除費用(但し市場手数料は前同様市場売上の六パーセント一、六六〇、八八九円となる)計四、七〇二、六八九円及び専従者控除額一四〇、〇〇〇円を控除すると同年の課税標準となる所得金額は二、一七二、五二七円となる。
(三) 市場手数料率及び場内整理費等の控除について
原告は市場手数料率につき、熊本及び福岡市場においては昭和三七年迄七%であると主張するけれども、証人川良房子、同南昌巳、同興梠重治、同小串俊一、同馬場虎夫の各証言によれば、被告主張の如く第一木材市場が昭和三五年三月迄七%で四月以降六%であり、肥後木材市場、熊本木材市場、福岡県木材市場、福岡相互木材市場はいずれも六%であることが認められ、従つて大牟田木材市場についても六%と推認することが出来る。又原告は場内整理費の別途控除及び大阪市場分についての海上運賃諸掛として一二%の別途控除を主張するけれども、証人古庄崇雄の証言によれば、市場手数料は取引先が市場の場合のみ徴収され、従つて取引先が市場である場合とそうでない場合とで区別すべき必要から別途控除がなされるのに対し、場内整理費は取引先が市場でない場合でもこれに相当するていどの同様な出荷諸掛りが必要である関係上標準外経費には該当せず、標準率の中に折り込まれた経費と解釈されていることが認められ、右解釈は正当と云うべきであり、又海上運賃についても同証言によれば一般に運賃は標準率の中に折り込まれ当然控除されていることが認められ、特に本件において海上運賃について別異に解すべき根拠は証拠上認められず、結局原告の主張はいずれも採用出来ない。
(四) 以上のように原告の昭和三五年分の所得金額は三、七七八、一〇三円、昭和三六年分の所得金額は四、五九九、二五二円、昭和三七年分の所得金額は二、一七二、五二七円であるからこれを下廻つて昭和三五年分の所得金額を三、六六九、四七二円、及び昭和三七年分の所得金額を二、〇一三、二二一円と認定した右各年分の更正処分はいずれも適法と云うべきであるが、右を上廻つて昭和三六年分の所得金額を五、〇〇〇、六四七円と認定した更正処分は、前記所得金額四、五九九、二五二円を超える処分については違法と云うべきである。
三 本件重加算税賦課処分の適否について
原告が多数の別人名義を使用して市場等と取引を行ない、右別名取引分について申告をせず或いは過少に申告していたことは前記のとおりであるところ、原告は右申告手続一切を訴外谷川浩に一任し、如何なる申告がなされているか、一切知らなかつたものであり、又同訴外人は被告の推せんによるものであるので全幅の信頼をおいていたのに実際は同人は何ら税理士の資格を有しない無能力の者であつたため、結局未申告又は過少申告をなすに至つたものであるから、右申告の責任は原告になく、むしろ被告にあると主張するので、以下判断するに、
証人谷川浩、同古庄崇雄の証言に原告本人尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)によれば、訴外谷川浩は児玉税理士事務所の職員であるところ、本件確定申告及び修正申告はいずれも同訴外人により児玉税理士名で為されていることが認められるけれども、被告において原告に対し税理士の資格を有しない同訴外人を推せんしたと認めるべき証拠はない。しかして右各証拠によれば、昭年三四年以降実際の申告手続、その準備等は同訴外人がなしていたものであるが、原告は収支明細の完全な帳簿を作つておらず、従つて本件確定申告はいずれも原告の方で記載し持参した売上計算書及び仕入帳に基いて為されていて右計算帳等に記載洩れがあるか否かは、谷川においては全く把握できない状態であつたこと、従つて右段階では原告が別名取引をしている分については全く未申告の状態にあつたところ、昭和三七年に至つて前記の如く被告が投書により原告の別名取引の事実を察知し調査を開始したので、ここに至つて始めて原告は谷川に対し売上洩れが発見されたと云つて善処方を相談し、その協議の結果早急に修正申告をなすことにしたが、具体的な資料は全くなかつたので、とりあえず大体の見当で昭和三五年分及び同三六年分の各所得金額について各二〇〇万円を増額計上して修正申告したものの、それでも右申告額は各年度の実際の所得金額を相当多額下廻つており、単なる過失により見積り違いの域を越えていることがそれぞれ認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果はにわかに措信出来ない。
右事実によれば、原告が別名で取引をしており、且つその別名取引分については、そのほとんど全部を原告の責任において故意に申告しなかつたことは明らかであり、結局本件各申告は税額の基礎となるべき事実を隠蔽してなされたものと云うことが出来る。
そうすると、昭和三五年分及び昭和三七年分の各重加算税賦課処分については、前叙のとおり、いずれも適正な更正による所得金額を基礎に各重加算税額が算出されていることが明らかであるから、結局いずれも適法と云うべきところ、昭和三六年分の重加算税の賦課処分については、前記の所得金額四、五九五、二五二円をこえて認定した所得を基礎とする限度で違法と云うべきである。
四 以上判示のとおり被告のなした本件更正処分並びに重加算税賦課処分のうち、昭和三六年分の各処分につき前示の限度においてその取消を求める部分の原告の本訴請求は理由があるので正当としてこれを認容し、その余をすべて失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 袋田速夫 裁判官 久末洋三 裁判官 福富昌昭)
別表第一
<省略>
別表第二 昭和35・36・37年分収入金明細表
<省略>
別表第三 手数料明細表
<省略>